起業前16話:23歳、旅立ちの前に、父がした決断

私の親友ともいえる母は、父に隠れて私の留学準備を手伝ってくれていた。
母だけは私のしたいことを応援してくれる。
自分が自由にできなかったからと。
きっと彼女が私の母でなかったら、私は父に反発して不良少女になっていたと思う。

「パパのことは大丈夫だから、行きたい大学に行ってがんばるのよ」
こんな母のことを、私は絶対に裏切らない。
母の想いに応えられる自分になるよう頑張ろう、と心の中で誓った。

引き継ぎの補足で元の職場に行っていたある日、父がふらりと立ち寄った。

「たまたま銀座まできたから」という。
そして私は、はじめて父と二人で飲んだ。あの部屋に逃げ込んで以来、父と顔を合わせていなかった。ぎこちなくご飯を食べ始めて、そろそろ食べ終わるという頃、

「パパは、あれから色々考えた。そして、おまえがたとえアメリカで殺されたとしても後悔をしないという心構えをしたんだ。だから・・・行ってこい」

私はびっくりした。
父が私のやりたいことに理解を示してくれた。
そうか、父の視点からすれば、最悪のケースで私が死んでしまうかもしれない。そんなことまで考えていたのか。

「おまえには、パパと同じ野心がある。頑張ってきなさい。」と天井を見ながら切なさの混じる声でいった。

父に対して常に反発的な私であったが、胸の奥がジンとした。
父とは心が離れ、久しい。その時、突然、すっかり忘れていた記憶が突然戻ってきた。幼い頃、パパっ子だった私が「わかなが二十歳すぎたら一緒に、飲みに行こうね。」と家で晩酌する父のひざの上で約束した。その頃は、本当にパパっ子で、私は父のことが大好きだった。

そして更に父は言っておきたいことがある、という。

「もし、誰かに襲われたら抵抗するな。生きて帰ることだけを考えろ」

そう言って私の手のひらに小さな包みを乗せて、まだ見るなと言い、私の指を閉じた。

「もしその時が来たら、これを相手に渡せ。そして、命だけは助けてくださいと言え」

私は自分の手のひらを開けた。

私の手のひらの上には・・・一袋のコンドームがのっていた。

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●わかな語録:最大の親孝行は「絶対に死なない道」を選ぶ

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起業前1話:バブル時代、ある目的のために給料で「銀座証券レディ」の道を選ぶ

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