出店寸前にもつれる人間関係「全て辞めてやる!」その8

ミキが肩で息をして汗をかいている。

「どうしたの!?大丈夫?」

不審者はどこにもいない。

「すごい叫び声だからびっくりしたよ」

「え?私、叫んだの」とミキの目はうつろだ。

ま、落ち着いて落ち着いてと。

しばらくして私はミキに聞いた。

「救世主?」

「そう」と。

なぜ商品をPOSレジに登録する件から彼女が悲鳴を上げるまでの話になるのか、ほとんどの人には理解できないだろう。

多分、これは私とミキにしか理解できないだろう。

ーー 会社が追い詰められて自ら不可能と判断した時、救ってくれたのは救世主だ。
だから何の反論もしたくないし、常に感謝の気持ちも伝えたい。

しかし、口の悪い救世主と話していると、優しい感謝の気持ちいっぱいの心がどこかへいってしまう。
この話を他の経営者達にすると、救ってくれたんだからうまくやったら良いよと言われる。
当たり前だ。私が聞く立場だったら同じように言うだろう。そうしたい。だけど、できない。

なんというか、救世主には独特な魔力みたいなものがあって、気がつくとものすごい毒舌で私も返しをしてしまうのだ。その魔力により呼び出された自分の嫌な面に、自分で驚いてしまう。それがミキの場合は雄叫びだった。

ミキは結婚30年間、旦那さんと大声を出す喧嘩をしたことがないという。多分人生で初めてこのレベルで怒鳴ったそうだ。

救世主にはどんなにアクの強い人であっても感謝しなくちゃねと常々言っていたミキ、そんな彼女が救世主に怒鳴ったという事をほぼ覚えていないという。それくらい頭に血が上ったらしい。人の記憶をなくすほどの魔力、いや恐ろしい。

その後も、アクの強い救世主からは毒舌の電話が続いた。

私はもう、本当に心から全てがイヤになった。全てやめてやる!

– つづく –

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